拝啓、寅次郎様
この度は長い旅に出かけられている様ですが、そちらは如何ですか。世話好き話好きの貴方様の
ことですから、行く先々の土地で皆様方と楽しくお過ごしのことと思います。
それはそうと、平成7年10月、わざわざ遠方の奄美大島から地震でメチャクチャに壊れ
変わり果てた神戸の長田にお立寄りくださりありがとうございました。本当に感謝でいっぱいです。
どれだけ皆が元気をもらったことか。あの時はなにもかもわすれ、久しぶりに笑顔が戻りました。
貴方様のおかげです。
私ごとで恐縮ですが、阪神淡路大震災のことを少し書いておきます。
平成7年('95)1月17日(火)午前5時46分、淡路島北部震源の直下型地震が発生。マグニチュード7.3・震度7、
ドーンと突き上げられた後、ゴーと地鳴りと共に南北方向に約20秒間ユッサユッサと揺れつづく。ちょうど寝
台列車の上段でカーブを通過しているような感じ・・?
真っ暗な中、何が何だかわからない。ミシミシと家が悲鳴を上げ、ガチャガチャと壊れる音が聞
こえるだけ。今まで経験のないことが起こっている事だけは確か。
夜が明けてから回りを見ると、我が家は一階の母親の部屋の窓が1ヵ所吹き飛び、一階の支柱の斜交いが4本折れ、
ガス管もひびが入っていた。庭はそこら中地割れが起き、石垣も崩れた所もある。板宿のビルは微妙に傾いたが
何とか大丈夫だが給水タンクが吹っ飛び、店は店内はめちゃくちゃ、ウインドウのガラスが壊れている。
長田のマンション1棟は全壊判定だった。
ライフラインは総て駄目、西側の長屋はぺしゃんこ、南方面が大火災のため空は一面煙におおわれグレー、
灰も飛んで来る。余震が続く。ヘリコプターが飛び交い、サイレンを鳴らした車が行き交う。
道路は倒壊物で通行できない所ばかり、人は頭から毛布をかぶって歩いている、不思議な光景です。
夜、弟のマンションに一家で避難する。そこでテレビを見て事の重大さを知る。阪神高速道路や
巨大ビルの倒壊など、なかなか信じられない光景が映し出され、すごいことになっている。
安否情報がずっと流れて、時間がたつにつれ、亡くなられた方が増えて行く。これから神戸は
どうなってしまうのか・・・
しかし、近所どうし助け合い、沢山の方々より暖かい励ましを沢山頂きました。人間の優しさに
感動しました。
人生が180度変わってしまいましたが、貴方様の様にくよくよせず、前向きに一日一日を大切に
過ごして行きます。
少しだけと思っていましたが、長くなってしまいました。また、お便りします。
追伸
仮設住宅も5年後には完全になくなり神戸の街は復興しましたが、心の傷後は今も続いています。
死者:6434名、行方不明:3名、住家全壊:104906棟、全半焼:7132棟
17日の神戸の天気 曇り時々晴れ、気温:最高8.0℃/最低1.4℃